でかい月だな/水森サトリ
ある満月の夜、友人に突然崖から蹴り落とされた中学生の「ぼく」。一命をとりとめるが、大好きなバスケットボールができない身体になってしまう。加害者の友人は姿を消し、入れ替わるように「ぼく」の前にあらわれたのは、インチキ錬金術師、邪眼を持つオカルト少女、そして「やつら」。そのうちに、世界は奇妙な「やさしさ」につつまれてゆき、やがて、地球のみんながひとつに溶け合おうとする夜がくる……。
第19回小説すばる新人賞受賞作
これも図書館で借りてきたものです。
タイトルの響きがなんか気になって。何かに似ているなーと思っていたのですが、たぶん
「おまえうまそうだな」かと。
実際は「だな」しか一緒じゃないんですけどね。
物語は13歳の満月の晩からはじまります。
その日、友人の綾瀬とバイクにのって山を通ります。
そこで崖から蹴り落とされ、足に怪我を負い、大好きだったバスケを出来ない身体になるんです。
なんとか手術やリハビリをこなし、中学2年生として学校に通いはじめたユキこと沢村幸彦。
ユキの前には変人があらわれ、無難な学校生活を送っていると違和感を覚えるようになります。
なぜかみんなが奇妙な「やさしさ」で満ち溢れるようになってしまうのです。
それと時を同じくして空飛ぶ魚の幻覚が見え――。
と、ある意味盛りだくさんの内容です。
ぶっちゃけ腐女子には心躍る展開になるのか!?とちょっと期待してしまいました。
ええ、男の子同士の友情って大好きです。ちょっとストーリー的には児童書にも近い感じなので児童書スキーにも楽しめると思いますよ。
途中までインチキ錬金術師こと中村くんがすっごい頑張っていたのですが、彼も「やさしさ」に飲み込まれてしまいます。
だから邪眼を持つオカルト少女・横山かごめに持っていかれ、綾瀬のお兄さんの語りでがかなりいい感じにもりあがり、
最後はユキを傷つけた綾瀬に持っていかれてしまうんですよね。
なんていうのかな。この話ってユキと綾瀬が再会する、ってのがテーマだったんだと思うんですよ。
だから、中村くんはあくまでも避難所というか保護施設というかそういうものでしかなかったんですよね。
これがその後の話が描かれるならまた話は別なんでしょうが、「綾瀬と会う」ってことを目的にしてしまうと中村くんからスポットが外れてしまうのは仕方のないことなのかもしれません。
でもああいう包容力のある少年って好きなのでちょっと残念。
かごめに関しては本当にその後に期待としかいいようがない。
ツンデレ――いやクーツン?少女をどのように手なずけていくのかはちょっと気になりましたけど、こっちも「綾瀬」を優先させることで語られていないんですよね。
この話って綾瀬のお兄さんの語りがあったからちょっと救いのある話になったんだろうな。
だから花火の話につながり、これからの約束ができたんだと。
綾瀬の無意識ってのは大事だから壊してしまう。大事だから誰かに壊される前に自分で壊してしまうってところなんですよね。
誰かに壊されるくらいなら――ってことなんだろうな。
正直、SFっぽいのってあんまり得意じゃないんで、空飛ぶ魚とか「やつら」とかそのへんは良くわかってないのですが、楽しめました。
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