ショートホープ・ヴィレッジ/藤井建司
あなたの"思い出"をクリーニングします。
夢を失った男がたどり着いた場所は"忘れられた街"
そこで見つけたものは、瞳の澄んだ恋人と風変わりな仕事ー―
じわりと心にしみる感動のファンタジー
"ロックスターになってやる"という夢を失った「僕」は、放浪の末に「ショートホープ・ヴィレッジ」と呼ばれる土地に流れ着いた。こぎれいな街並の中で、そこだけがひっそりと忘れ去られた場所。そこで澄んだ瞳の彼女と出会い、"思い出"をクリーニングするという奇妙な会社にスカウトされる……。他人の"思い出"をきれいにするなんてことはできるのか、そして不思議な街と彼女の秘密とは?
新鋭が描く心揺さぶる長編ファンタジー
棚に並んでいたんですが、なぜかタイトルが目に付いたので図書館でかりていました。
そういう一期一会的な出会いがあるから図書館通いはやめられないんですよね。
何故か再開発計画からぽっかり忘れ去られてしまった一画「ショートホープ・ヴィレッジ」。
20年前の姿をそのまま残すそこは何故か住人の影をも薄れさせてしまう効果を持っていました。
主人公はそこで暮らしながら、他人の思い出をどうにかする会社「思い出クリーニングセンター」でバイトをはじめます。
そんなセンターとヴィレッジを往復する青年の様子を描いた物語です。
正直、最初はうさんくさいことこの上ない仕事だと思っていたんですが、途中からは確かにありだなぁと。
昔酷くふった女がいて長年その女に対する罪悪感を覚えていた。その罪悪感をどうにかするためにその女にひどく罵ってほしい。
そうされることで自分が被害者になることができるし、断罪にもなる、と。
実際その女を連れてくることは出来ないけれど、スタッフがその女のフリをして客を罵る、とか。
父親にDVを受けていた少年がそれがトラウマとなり大人の男性と接することが出来ない。
母親が別の男性と再婚するために、その父親の記憶は邪魔でしかない。だから消してしまおう、とか。
やっていることはめちゃくちゃなんですけど、わからなくはない、といった感じ。
それだけに、会社の社員たちが警察に連行されたときはすごく冷めてしまいました。
詐欺と傷害はわかる。実際そういわれても仕方のない行為ですからね。
でも「思い出を奪った窃盗の罪」って何。
主人公の生活基盤をめちゃくちゃにするためのイベントだったんでしょうが、ちょっとなぁ。
個人的にはそれなら男がセンターに放火でもして営業できないようになってしまったとかの方が良かったんじゃないかな、と思います。
結局、最後まで「なぜショートホープ・ヴィレッジは人から忘れられてしまうのか」ということは明らかにならなかったんですよね。
それが明かされるのを楽しみにしていたんですが、最後まで明かされませんでした。
村の命名理由は物語半ばで明かされているんですが、タバコ嗜まない家系なので「ショートホープ?」ってなってしまいました。
わかる人には題名の時点でわかったんでしょうね。
正直、ファンタジーというにはそういう要素がうすいし、かといってリアルさがあるかといわれるとそれも……。
なんとも中途半端な印象を受けました。
設定はおもしろいし、文体も比較的読みやすかっただけに残念でした。
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