想い出あずかります/吉野万里子
海辺に住む不思議な女性と女子高生の、切なくも幸せな出会い――。
嬉しいのに涙が出て、傷ついても信じてみたい。
自分にそんな感情があることを、初めて知ったあの日。
こんなに大事な想い出も、人は忘れてしまうもの?
毎日が特別だったあの頃が、記憶の海からよみがえる!
きらきらと胸を打つ、大人のための長編小説。
図書館で借りてきました。
冒頭を読んで、思わず腕に抱えていました。
物語は帯にあるとおり、一人の女性と少女の物語。
女性は魔法使いで、少女は高校生となっているけれど、作中で中学生から高校生、そして大学生へと成長していきます。
少女が魔法使いが営む「おもいで質屋」に出入りし、さまざまなことを経験しながら成長していくのです。
作品冒頭でも触れられているのですが、質屋はひらがななのに、作品タイトルは漢字なんだなぁ、と読み終わってちょっと不思議な感じがしました。
主人公は里華という少女。
新聞部であった少女が「おもいで質屋」を取材するところからこの2人の交流がはじまります。
ちょっと切なかったです。
なんていうのかな。
人間じゃないから感情がよくわからない魔法使いと、他人の感情と自分の感情の狭間で振り回されている里華。
最終的にはとてもすてきに成長する里華ですが、ちょっと潔癖性なのかめんどくさい性格だなぁと思ってしまいました。
里華の彼氏であった雪成くん。
里華が質屋を取材して書き上げた記事を没にされたあとの屋上でのやりとりはすごくいいな、と思えた彼ですが、年月とともに物語が進むにつれすごく嫌な子だな、と。
というか最低だな、と。自己中というか身勝手というか。そんな感じ。
別れて良かったと思いますよ。
里華の友人である芽依が質屋の存在を忘れてしまったことについて。
質屋の存在というのはそういうものだということは作中できちんと説明されていました。
でも、実際に忘れてしまっている芽依を見て、ああすごく悲しいな、と。
けっこうな時間をあの質屋で過ごしたであろう里華と芽依。
作中でも語られていましたが、友達になるきっかけはあの店での出来事でした。
彼女たちが一生物の親友であるということには変わりはないのでしょう。
それでも、多くの想い出が20歳の誕生日とともに消えていってしまうのは……。
結局、里華は20歳を迎えても質屋の記憶をなくすことはありませんでした。
しかし、そこに存在するはずの質屋を見ることは出来なくなってしまったよう。
遥斗くんに魔法使いへ伝言を頼みますが、彼が思いの外、いい男に成長していてなんかテンションがあがりました。
はじめはただの“クソガキ”だったのに。
この後の物語が描かれることはないのでしょう。
少なくとも里華と魔法使いの関係が描かれることはないと思います。
彼女はこれから先、幸せな生活を送り、ふとした瞬間に質屋のことを、魔法使いのことを思い出すんだろうな。
おもしろかったです。
[2回]
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