蕃東国年代記/西崎憲
郷愁の国で永遠に暮らす貴族宇内と少年藍佐。
三尾の竜。宝玉を探す男。草や鳥を涙させる少女。
「誰かがここで待っていたのではないか」
日常に怪異跳梁し、人心が夢魔を呼び出す――書き下ろし長編小説。
吸い寄せられて、蕃東へ。うららかで懐かしい時空を超えた異世界に心解き放たれる……
「ずっと読み続けていたくなる」普遍にして新しい物語。
表紙のイラストに惹かれて図書館で借りてきました。
『雨竜見物』
『霧と煙』
『海林にて』
『有明中将』
『気獣と宝玉』
の5編が収録されています。
すべて蕃東という国を舞台にした話です。
各話間のつながりはあるようでない、といったところでしょうか。
『雨竜見物』で登場する宇内(30歳)の若かりし頃の話を描いたのが『気獣と宝玉』で、同じく『雨竜見物』に登場する藍佐(17歳)が成長したのちの物語が『海林にて』なんでしょう。
さらに『霧と煙』で登場する盗賊・霧と同じく名を知らしめたという盗賊・煙は『気獣と宝玉』で登場しています。
『有明中将』だけが他の話とのつながりがないのかな?
私が読み漏らしただけなのかもしれませんが、わかりやすいつながりはなかったと思います。
すごく不思議な作品でした。
まず、舞台となる蕃東。
蕃東は日本海に位置する国で、はじめ「蕃東=日本」なのかな?と思ったのですが、そういうわけではなく、日本も存在した上で、蕃東も存在するんです。
口絵っていうのかな?そこに地図が載せられているのですが、それをみて「そういう設定なのかー」と妙に納得してしまいました。
明らかに虚構の国であるにも関わらず、作品と作品の間に蕃東について書かれた引用文が入れてあるんです。
それがとてももっともらしいのです。
「自分が知らなかっただけで、本当は蕃東という国があったのではないか?」と考えてしまいそうになるほど本物めいていました。
作品の文体は結構固めで、古文の教科書とまではいきませんが、平安っぽい時代が舞台になっているだけあって、そういう古典めいた印象を受けました。
過去形を多様していたせいなのか、すごく不思議なふわふわとした、夢と現がわからなくなるようなそんな話でした。
どことなく、
梨木香歩さんの作品を思い出しました。
起承転結でいう転も淡々と描かれているので物語としての盛り上がりにはかけます。
それでも気づくと物語にどっぷり引き込まれているのですからすごいです。
タイトルは年代記となっていますが、そこまで時代が大きく動いているわけではありません。
上にも書きましたが、宇内や藍佐の年齢、帝の名前などからして多く見積もったとしてもせいぜいが50年程度の間の出来事であることがわかります。
年代記とするにはずいぶんと限定されているなぁと思わなくもなかったですが、作者(あるいは編集者)が続編というかシリーズを出そうとして考えているならこれもありかなぁと思わされました。
今巻のメインは宇内と藍佐であり、次巻はそれより未来や過去の年代に焦点をあてる予定だったのかな?と。
そればっかりはしばらく時間をおいてからじゃないとわかりません。
この作品が出版されたのは昨年12月。まだ1年たってないことを考えると続編がでるのか否かの判断はできませんね。
休日の昼間に読んでしまったのですが、夜寝る前に1編ずつゆっくり読み進めてみても良かったな、と思いました。
[0回]
COMMENT