青空の卵/坂木司
僕は坂木司。外資系の保険会社に勤務している。友人の鳥井真一はひきこもりだ。プログラマーを職とし、料理が得意で、口にするものは何でも自分で作ってしまう――それもプロ顔負けの包丁さばきで。要するに外界との接触を絶って暮らしている鳥井を、なんとか社会に引っ張り出したい、と僕は日夜奮闘している。そんな僕が街で出会った気になること、不思議なことを鳥井の許に持ち込み、その並外れた観察眼と推理力によって縺れた糸を解きほぐしてもうらたびに、友人の世界は少しずつ、でも確実に外に広がっていくのだった……!?
気鋭の新人による書き下ろし連作推理短編集。
図書館で借りてきました。
この方の作品は今回はじめて借りて、特に期待もしていなかったのですが、私のツボにはまる話でした。
『夏の終わりの三重奏』
『秋の足音』
『冬の贈りもの』
『春の子供』
『初夏のひよこ』
上記5編が収録されています。
『初夏のひよこ』はSSというかエピローグのようなものなのでちょっと他とは違うかもしれません。
この作品は連作推理モノとカテゴリされているようなんですが、青春小説の面もあるなぁと読んでいて思いました。
年齢的には少年というには無理があるのですが、精神的には青年へと成長する途中というか少年と青年の狭間というか。
そんな感じ。
そして、主人公と友人の関係に非常に萌えてしまいました(笑)
主人公の名前と作者名が同姓同名であるんですが、あまりにも登場人物の坂木がいい人すぎるので、作者=登場人物と感じることはありませんでした。
氷川透さんの作品は逆に読んでいてわかんなくなってきてしまったんですけどね。
逆に
有栖川有栖さんはからくりを知ってからはそういう風には見れなくなりました。
閑話休題。
探偵役は坂木の親友でプログラマー、そしてひきこもり気味の鳥井真一です。
帯に「名探偵はひきこもり」とあったので安楽椅子探偵かと思ったのです。
実際は、推理自体はひきこもって話を聞くだけで終えているものの謎解きはけっこう外にも出ていてちょっと不思議な感じでした。
謎自体は日常の謎を解いていくものなので、人の生死に関わってくるようなものはありません。
キャラクターが非常に魅力的です。
いい人すぎる坂木をはじめ、一見冷静沈着に見えて実はかなり精神的に不安定な鳥井。
2人の同級生で剛胆な警察官である滝本とその後輩で穏和な小宮くん。
美人でちょっと過激なデパート勤務の巣田さんに、元簪職人の木村さん、目の見えない頭のいい塚田くん、石川助六こと歌舞伎の女形をつとめる安藤さん。
謎自体はけっこうほのぼのしているんですが、それの根底にあるものが非常に深いなと思いました。
萌えるだけで終わらない、のがすごい。
女性軽視(蔑視?)、障害者に対する扱い、呼称に関する問題などなど。
普段あまり考えずにすましてしまいがちなことなだけにグサリときます。
父と向き合い少しだけ成長した鳥井。しかしながら大元となる出来事に対してはまだ向き合えいていません。
このシリーズは3作で終了しているようなんですが、図書館に続編があったかどうかは不明。
図書館にあったら続編も借りて来たいと思います。
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