話虫干/小路幸也
ハナシムシ【話虫】
図書館所蔵の稀覯本などの物語をいつの間にか作り替えてしまう力をもつもの。未練を残す作家の魂の仕業などと言われている。
ハナシムシボシ【話虫干】
その本の物語内世界に入り込み、話虫によって作り替えられた物語を元に戻すこと。馬場横町市立図書館員の仕事とされている。
『こゝろ』を取り戻せるか?
刻々と書き換えられていく文豪・夏目漱石の『こゝろ』
バーチャルとレトロが錯綜する物語内世界に入り込め!
傑作長編小説!
図書館で借りてきました。
小路さんの作品はちょっと久しぶりですね。
物語の内容としては、図書館職員の糸井馨が話虫によって内容の書き換えられてしまった夏目漱石の『
こゝろ 』の世界に入り込み、元の物語へと戻そうとする話です。
恥ずかしながら、『こゝろ』は未読です。
もちろん夏目漱石の代表作であることは知ってます。
ですが、内容については高校時代に授業で先生の遺書の部分をちらっと読んだくらいしか知りません。
なので、説明されるまで圖中(となか)が先生であり、桑島がKであるとはわかりませんでした。
物語の時間軸としては先生の若かりしころの話です。
静さんともくっついていないからKも自殺なんかしていない時代ですね。
正直、慣れるまで読み進めづらかったです。
冒頭は圖中の視点から始まるんですが、途中途中で糸井の視点に変わったりするのですが、どちらも一人称なので「今はいったい誰の視点だ?」となってしまうことがありました。
主人公は糸井なんでしょうが、ほとんどが圖中の視点なので……。
『こゝろ』の世界なのに作者である夏目漱石や小泉八雲、森鴎外の
舞姫の登場人物であるエリス(作中ではエリーズ)が登場し、極め付けにシャーロックホームズが登場したときにはびっくりしてしまいました(笑)
作中でも触れられていましたが、
「(今回の話虫は)物語を作るのが下手くそじゃないのかい。風呂敷を広げ過ぎてとてもまともな筋になうとは思えない。」(p73)
なんてことが言われているんですが、まさにそんな感じ。
どうしても悲劇的な終わり方をしてしまうKと先生。
糸井ではありませんが、そういう物語ではあるとはいえ圖中と桑島が死んでしまうのをそのまま受け入れることは出来ません。
だから、ラストのオチとしてはなかなかいいんですけどね。
結局、『こゝろ』の世界から話虫は出ていったわけですが、話虫の正体は何もわかっていません。
設定だけ見たらラノベとかでもありえそうな話だったんですが、小路さんの描き方だと続編は期待できそうにないかな?って感じでした。
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