紙片は告発する/D・M・ディヴァイン(訳/中村有希)
周囲から軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った奇妙な紙片のことを警察に話すつもりだと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……! 現在の町は、町長選出をめぐって揺れており、少なからぬ数の人間が秘密をかかえている。発覚を恐れ、口を封じたのは誰か? 地方都市を起きた殺人事件とその謎解き、筆者真骨頂の犯人当て!
本が好き!さんを通じて東京創元社さんからご恵贈いただきました。
最近、翻訳ものが多いのは何かと頂戴する本が多いからだったりします。
物語はキルクラノンという町が舞台。その町の議会運営を行うタウンホールがメインです。
大小様々な秘密を抱える人々を相手に、なりゆきで自身の身を守るためにも副書記官のジェニファーが探偵役を務めます。
基本的に私は、順番通り本編を読んだあとに解説やあとがきを読むのですが、解説を読んで驚きました。
それというのも、この作品というのは1970年に発表された作品をこの度邦訳したものなんだとか。
発表からおよそ半世紀もたつ作品だというのにそういう古臭さが全く感じられない作品でした。
いや、タイピストとか携帯電話が登場しないこととかそういう点では時代を感じないこともないのですが、全然気にせずさらりと読めました。
どちらかというと、すっごい普通に飲酒運転してたり、今なら絶対騒がれるセクハラ発言だったりLGBT問題だったりそちらの方に時代を感じてしまいました。
あとは、日本人だとお見舞いに菊の花を持っていくことなど、文化の違いの問題なんでしょうがそちらの方が気になってしまいました。
私自身が大掛かりな仕掛けの施された新本格やライトミステリーばかりを読んでいるせいか、ミステリーとしては、地味というか物足りない印象を受けました。
ジェニファーの一人称で進むがゆえに、犯人の正体にはなるほどなーとは思いましたけども。
この作品、冒頭はルースの視点で語られるんです。
ルースは警察官のボーイフレンドとのデートを楽しみにして、うきうきと準備をしている最中に殺害されています。
このボーイフレンド・クリスは全編を通じて登場するのですが、まあルースとどうこうする気はなかったようですしそういう意味ではルースは幸せの中で死ねたのかな?なんてことを思ってしまいました。
恋は盲目というか、ルースはこのままクリスと付き合っていても傷つく未来しかなかったでしょうしね。
でもまあ、殺されるほど悪い子ではなかったでしょうし、その辺は辛いところです。
後半になって見えるようになるジェニファーの弱い部分。
彼女を呪縛のようにとらえていた「泣くのは明日にしよう」という言葉。
それから解放されたのは良かったんじゃないかな、と思います。
この方は故人で、そう多くの作品を残しているわけではないようなのですが、ほとんどの作品が邦訳されています。
シリーズもの等はないようですし、いつか別の作品も読んでみたいなとおもいました。
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