アコギなのかリッパなのか/畠中恵
21歳の大学生・佐倉聖は腹違いの弟を養うため、元大物国会議員・大堂剛の事務所に事務員として勤めている。
ここに持ち込まれるのは、大堂の弟子にあたる議員からの様々な問題。
飼い猫の毛の色が変わる謎、後援会幹部が何者かに殴打された事件の始末、宗教団体へ入信の秘書が寄進した絵画の奪還……
などの厄介ごとに関わった聖は、元不良の負けん気と機転の利く頭で、センセイ方顔負けの“解決”を成しとげてしまうのであった――。
図書館で借りてきました。
しゃばけシリーズの
畠中恵さんの作品ですが、珍しく時代物じゃありません。
【政治家事務所の一日】
この話は巻末に納められている『選挙速報と~』に続くので、そっちに書きますね。
【五色の猫】
飼い猫の毛色が変わるという相談を受ける話。
毛色というのは比喩的な意味ではなく、三毛とか黒とか白とかそういう意味での毛色です。
未亡人である老婦人が主張する「色」の話。
結末がわかってしまえば、「色」に関してはなんてことないんです。
ただ、そんなこと言ってしまった未亡人がちょっとかわいそうでした。
でも、それをきちんと幸せになれる方法に導いたのですから聖はすごいです。
【白い背広】
若手議員の王子様と呼ばれる加納の選挙区で起きた傷害事件について調べる話。
聖は加納のことが気に食わないらしいです。
まあ、若手といっても30代後半(読んでる最中は40代半ばくらいかと思ってました)で議員としては若手でも、おじさん呼ばわりされても仕方ない年齢ですね。
新任の警察署長が出しゃばってきたがために、聖の力を借りてどうこう、って話になったんですねー。
地元民だけなら加納一人の力でどうにでもできた、と。
警察署長の年齢は描写されていなかったと思いますが、地方の警察署の署長になり、出世を気にしているってことはキャリアかぁ。年齢的には、30半ばくらいかな?
キャリアは現場に出てはいけない、ってよくいろんな作品で書かれていますが、これもまたそんな感じ。
署長が出てこなければ、殺人未遂事件として処理されることもなく、せいぜい傷害。しかも被害者が被害届けを出さないから事件として成り立たないレベルの話ですもんね。
【月下の青】
寄付として貰った絵画「月下の青」を持ったまま新興宗教に入信してしまった秘書を追いかける話。
今回は一種の叙述トリックとでもいえばいいのかな?
そういうものが使われています。
聖の言うとおり、そういう方法での人物入れ替わりは比較的楽ですよね。
なぜ秘書が新興宗教に走ってしまったのかについては苦笑いしか出てきませんが、絵画の持ち出し方については見事です。
【商店街の赤信号】
選挙区にある商店街の夫婦のダイエットから当選を左右するまで派生した話。
薬局の旦那さんが、奥さんの厳しい食事制限のおかげで順調にやせてきていたものの、選挙事務所を手伝うようになった途端太り初めてしまうんです。
だから、選挙事務所で間食しているに違いない、そうじゃないにしても、選挙事務所に関わったことが原因なら婦人会は票を入れないからね!と。
その一方で、旦那衆は気の毒だから奥さんに言わないでほしい、と。
間食方法を奥さんに言ったら男性票が望めず、かといって奥さんに言わなければ男性票が望めないという何とも厳しい状況においこまれてしまいます。
この難題をどうやって落とすのだろう?と思ったのですが、聖は見事に決着をつけてしまいます。
さすがです。
【親父とオヤジとピンクの便せん】
15年ぶりに父親と顔をあわせ、オヤジの息子について理解する話。
親父=実父、オヤジ=大堂なんですが、両方の「おやじ」の息子の話なんです。
聖が混乱してしまうのもわかるなぁ。
やっと聖人したばっかりの息子のもとにまだ中学生の弟を送り込んできた父が突然現れ、いなくなってしまう。
その一方で、めんどくさい若者たちの相手をしなければいけないと。
それでも混乱したままで終わらないのですから偉いです。
というか、聖が達観しすぎというか、年寄りくさいというか。
それだけ大変な目にあってきたってことだと思うのですが、21歳で「年をとったから」とか言われちゃたまったもんじゃないですよね。
せいぜい「成長したから」とかでやめておいて欲しい。
「オヤジの息子」というのは後継者の符丁ってことらしいのですが、聖が後を継ぐってことはありそうですね。嫌がりそうですけど。
一番きちんと仕込まれているような気がするのですが。
【選挙速報と小原和博】
小原さんの選挙の話。
冒頭に収録されている『政治家事務所の一日』の続きです。
分ける必要があったかは疑問ですが、まあいいや。
小原さんの不安もわからなくもないんですが、いくらなんでも若い聖にあたっちゃダメでしょうに。
最後のケーキのシーンは良かったです。
この作品、続き出てもおかしくない気がするんですが、出てないんですよね。
というか、文庫化もされてない。文庫化されたら買おうと思っているのですが。
このまま出ないのかなー。気長に待ちたいと思います。
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