時計坂の家/高楼方子
何度体験しても、慣れるということのないできごとがあるとしたら、これもそのひとつだった。言いようのない不可思議さに、初めてのときと同じ眩暈をおぼえるのだ。そしてやがて、目の前に、ぼんやり、ぼんやり、緑色の景色があらわれる。牡丹色の霞の中から、ふうわり、ふうわり、立ちあらわれてくるのだ。
図書館で借りてきました。
作者さんはたかどのほうこさんと読みます。
12歳の夏休み、フー子は同い年のいとこ・マリカに誘われて二人の祖父が暮らす町・汀舘へ訪れることになります。
そこで見つけたのは、妙なところに設置された開かずの扉と精巧な細工の施された懐中時計。
懐中時計が時計草へ、かつて物干し台があった閉ざされたはずの扉の向こうが緑の園へと変わり、フー子は抗いようのない欲求に負け、緑の園へと足を踏み入れてしまうのです。
不思議な世界に紛れ込んだフー子はこの秘密を憧れの少女であるマリカと共有したいと望むもののうまくいきません。
それというのも、どうも二人の親が小さいときに亡くなった祖母が関わっていると知れたから。
それゆえに二人の親は汀舘に寄り付かず、祖父はお手伝いであるリサさんと二人で静かに暮らしていたのでした。
近所にある時計塔を作った職人であるチェルヌイシェフを調べていたマリカのいとこである映介とともに、チェルヌイシェフや祖母の真実に徐々に迫っていくのですが……。
前半はいったいどういう展開になるのか読めず、中々ページをめくる手が進まなかったのですが、後半は一気に読んでしまいました。
こうはいっては何ですが、この本はだいぶ古い本です。
1992年が初版らしいので、平成になってちょっとしたぐらいでしょうか。
まだ携帯なんて一般的ではなく、友達と連絡を取るのも家に電話して家族の人が出ないといいな、なんて思いながら連絡していたころです。
施設の電話番号を調べるのもインターネットではなく、電話帳ですし、物事を調べるのも図書館や自分の足を使っての聞き込みがおもです。
今の子が読んだらよくわからないことも多いでしょう。
作者の実姉である千葉史子(ちかこ)さんが描かれたイラストもけして現代的とはいえません。
木炭で描かれたであろうそれらはむしろ少し怖いくらいです。
それでも、フー子が心惹かれた「マツリカの園」はとても美しく、危険ゆえに非常に魅力的に見えるのです。
祖母が抗うことができなかったそれに、フー子が飲み込まれたなかったのは彼の存在ゆえであり、そのことを祖父には告げなかったフー子がなんだかひどく大人に見えました。
賭博師はようやく賭けに勝つことができたのでしょうが、妖術使いは自らの所業を見せつけるのをやめることが出来るのでしょうか。
汀舘から姿をけした懐中時計。
次はいったい誰の元へ向かうのでしょうね。
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