家庭諧謔探偵小説 壺中の天国/倉知淳
「全能にして全知の存在から電波を受信している私を妨害しないで頂きたい」――静かな地方都市で奇妙な怪文書が見つかる。
それは、あたかも同市で発生した通り魔殺人の犯行声明のようであった。その後第二、第三の通り魔殺人が起こるごとに、バラ撒かれる「電波系」怪文書。
果たして犯人の真の目的は?
互いに無関係に思える被害者達を結ぶ、ミッシング・リンクは存在するのか……。
本格ミステリの歴史に燦然と輝く、第一回本格ミステリ大賞受賞作!!
昨日に引き続き、かなり分厚いモノを読んでみました。
600ページ超って休みだからできることですね。
物語はクリーニング店でパートとして働くシングルマザー・知子を主人公にして語られていきます。
彼女の住む地方都市・稲岡市で殺人事件がおこります。
それに彼女が関わることになるのかと思いきや、そんなこともなく。
あくまで事件自体は対岸の火事とでもいえばいいのか。
はじめは「変質者でしょう?」「怖いわねぇ」「犯人はまだ捕まらないの?」みたいな会話がなされているだけなんです。
しかし、事件が2件、3件と続くうちに「近所の見回りをしよう」だの「子どもの習い事をお休みさせて……」と様相が変わっていくわけです。
があくまでも知子や知子の周辺人物に危害が加えられるわけではないので、ちょっと拍子抜けしてしまいました。
物語の構成が少し変わっていて、知子の日常→被害者の殺害直前の行動→犯行声明文→フィギュアの彩色風景→知子の日常……といった風に進んでいくんです。
最後に明かされるまであれは犯人のものなのだと勘違いしていました。
途中で語られるタイトルの由来となった故事『壺中の天』。
読んでいて有栖川有栖さんの
ダリの繭を思い出しました。
あれとは若干違うんだと思うのですが、壺の中の世界というのがすごく魅力的に思えてなりませんでした。
世間一般から見たら不安に思われる「壺の中の世界」ですが、ちゃんと戻ってくることが出来たらその人の世界を広くするだけで何にも悪いことないんですよね。
妖アパの千晶がいっていた「オタクの世界」とか「妄想で遊ぶこと」とかそのへんと近いものがあるんだろうなぁ。
途中途中で、正太郎と知子の会話があるのですが、彼の言葉は妙に納得させられてしまいました。
でもまさか、10歳の女の子が三次元生物BLを作っているとかなぁ。
ちょっとびっくりしてしまいましたが、小学生時分ってみんな何かしらストーリー性のあることを考えて友達とああでもないこうでもないってやっていた記憶もあるからあながち間違いでもないんですよね。
最終的に正太郎の助言――本人は想像とか言ってましたが、傍から見たらプロファイリングっぽかったです。
娘に認められた2人でしたが、きっとなんだかんだあって自然とくっつくんだろうなぁ。
水嶋くんがそっちにも絡んでくるかと思いましたが、そういうわけではなさそうですね。
かなりの分厚さで、途中これっているの?って思わされるものもありましたが、最後の最後で明かされた伏線にはびっくりしてしまいました。
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