紅雲町ものがたり/吉永奈央
おばあちゃん探偵、走る!離婚や息子との死別を乗り越え、老いても自分の夢にかけた大正生まれのお草(そう)。
知的で小粋な彼女が、街の噂や事件の先に見た人生の“真実”とは――。
図書館で借りてきました。
こういうすらすら読めるんだけど、じっくり読みたいなと思わされる作品には久しぶりに出会った気がします。
【紅雲町のお草】
【クワバラ、クワバラ】
【0と1の間】
【悪い男】
【萩を揺らす雨】
5編が収録されています。
大正生まれのおばあちゃん・お草さんが主人公の連作短編です。
お草さんは、紅雲町で和食器とコーヒー豆を売る店「小蔵屋(こくらや)」を経営しています。
コーヒーの試飲サービス(1杯タダ)が人気でそれなりに繁盛している小さなお店のよう。
お草さんは、そこの客たちの会話だったり、様子だったりから、問題の片鱗を見つけ解決に乗り出すんです。
個人的には1番最初の
【紅雲町のお草】の事件解決シーンが好きです。
宮部みゆきさんとかでこういうのありそうだな、と思いながら読んでましたがああいう連携はいいですね。
あとはそうですね。
【0と1の間】の白石くんや
【悪い男】の大竹さんも結構好きです。
こう書くと私が不器用な男が好きみたいですが、そういう訳じゃないですからね。
作中では少しずつ時間が流れていきます。
だから、はじめの
【紅雲町の~】では「数えで七十六」なんですが、最後の
【萩を揺らす~】では「七十七の」になっているんですね。
お草さん自身はまだまだ元気なつもりなんですが、実際寄る年波には勝てないらしく体をちょっと動かすとどこかしらが痛くなっていたり、幼いころからの親友に痴呆の気があって危ないからと息子に引き取られていったりと、少しずつ周りの環境が変わりつつあるんですね。
しかしながら、この年で携帯で電話したりパソコンの勉強をしたりとなかなかパワフルなおばあちゃんなのは確かです。
読んでいて思ったのは、この作品はすでに何冊かシリーズが出ているんじゃないのかってことでした。
お草さんとバイトの久実ちゃん、お草さんの友人たち。
キャラがしっかりしているんですよ。
だから、これがシリーズ3冊目と言われても特に驚かなかったんじゃないかな。
連作短編だからどこから読んでもそこまで問題ないってこともあって余計そう思うんじゃないかなって思いました。
全編通して私が気になったのはお草さんの持っている『男物の黒い蝙蝠傘』。
これはいったい誰のものだったんだろう、と。
お草さんが何のエピソードもなくあの傘を持っているとは思えなくて。きっとなにかしらエピソードがあって彼女はずっとあの傘を持ち歩いているんだと思うんですが。
この作品シリーズ化しているようです。
そちらでこのことが語られているといいな。
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