ペルシャ猫の謎/有栖川有栖
「買いなさい。損はさせないから」話題騒然の表題作「ペルシャ猫の謎」。血塗られた舞台に愛と憎しみが交錯する「切り裂きジャックを待ちながら」、名バイプレーヤー・も利した刑事が主役となって名推理を披露する「赤い帽子」など、粒よりの傑作集。<国名シリーズ>第五弾、火村・有栖川の名コンビはパワー全開!
今回は若干、異色っぽい作品が多かったです。
火村先生とアリスのやりとりは相変わらずではありますが、謎解きという点ではちょっと物足りないかもしれません。
『切り裂きジャックを待ちながら』
劇団におくられてきたビデオレターには主演女優の誘拐された姿が映っていて、その後女優が舞台で死体となって発見される話。
なんかテレビ的というか、相棒とかコナンとかそういうのを見てるような気分になったんですが、あながち間違っていなかったようですね。
それというのもこの作品、有栖川さんが原案の推理ドラマのノベライズとのこと。
納得しました。道理で火村先生の登場シーンがあんなにもかっこいいわけです。
あの登場シーンにはびっくりしました。
『わらう月』
アリバイ工作を行った女性視点の話。
南半球では太陽(月)の軌道がそういうことになるとは、理屈ではわかります。
が、言われるまで気づかなかったです。
人間の顔が左右対称でないってことは知っていましたが、女性のちょっとした一言まで伏線になるとは思いませんでした。
『暗号を撒く男』
殺された男性宅に配置された奇妙なものたちの話。
朝井さんが登場します。
形としてはアリスが火村先生に聞いた話を朝井さんに語るというもの。
アリスの記憶力にちょっと驚きました。
というか、火村先生ったらそんな不機嫌になるような事件もアリスには話してるのね、と思ってしまいました。
これ別にアリスが語る必要性なんてないんですよ。
その場に火村先生がいないのならともかく、横に座っているんですから。
それなのに、語り部を譲った火村先生に思わず深読みしたくなりました。
『赤い帽子』
森下刑事が主役の大阪府警が事件を追う様子を描いた作品。
アリスも火村先生も登場しない作品です。
どちらか片方しか現場にいないとか、語って聞かせるとかならありましたけど、どちらも登場しないのってはじめてじゃないでしょうか。
思っていたよりおもしろかったです。
森下刑事がアルマーニを着ている理由が明らかになります。
アルマーニを着ている刑事というと、この森下刑事と夢水清志郎シリーズに登場する岩清水刑事くらいしか知りません。
岩清水刑事はただのおしゃれだろうと思うので、この森下刑事の「鎧」にはちょっと納得してしまいました。
早く立派な刑事になれたらいいですね。
『悲劇的』
火村先生が書いた「小説」の話。
妙に納得してしまいました。
作中で語られるK君の憤り。
これだけを読んだら暗く終ってしまうだろうに、それをうまく回避しています。
K君の怒りはまったくもってその通りなだけに、どのように終わらせるのか、ちょっとハラハラしてたんです。
この手の問題に下手な回答をしたら面倒なことになるだけですし。
思わずくすりとしてしまったんですが、本当はそれじゃダメなんでしょうね。
神はいつになったら起きるのでしょう。
『ペルシャ猫の謎』
弟に殺されかけたという被害者だが、弟にも猫にもアリバイがあるという奇妙な話。
表題作です。
え、そういうのなの?と首をかしげてしまいました。
コズミックを読んだことがある身としては全然問題ない感じ。
読んでから何年もたちますが、あれよりイラつかされる作品には出会ったことありません。
4日もかけて読んで、結末がアレで投げつけたくなりましたからね……。(借り物だったので投げませんでしたが)
当時高校生だった私には受け入れられませんでしたが、今読めばまた感想も変わってくるんじゃないかな。
まあ、あの分厚く、かつ結末を覚えている本を読むだけの気力もないのも確かです。
『猫と雨と助教授と』
SS。ばあちゃんとアリスの電話。
火村先生が思いのほか可愛らしい。
なんかこの調子じゃまだまだ増えそうですね。
猫の方が寿命は短いだろうから、火村先生もばあちゃんも悲しむんだろうなぁ、ってところまで考えてしまった自分がちょっと嫌でした。
異色ぞろいの短編集でしたが、中々おもしろかったです。
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