白い兎が逃げる/有栖川有栖
ストーカー行為に悩む劇団の看板女優・清水伶奈。彼女を変質者から引き離す計画は成功したはずだった。ところが、ストーカーが兎小屋の裏で死体となって発見される。追いかけていたはずの彼が――。鉄道に絡むトリックを用いた表題作ほか、火村とアリスが挑む三つの事件。ミステリのエッセンスをふんだんに盛り込んだ、これぞ正統派の推理小説。
台風が北海道を通過していってちょっとほっとしました。
みなさんのところは大丈夫だったでしょうか。
本当に今年は天災が多いですね……。
今日は有栖川有栖さんの中編集(作者あとがきより)。
同じ中編とはいいつつも、表題作の占める割合がかなり大きいです。
【不在の証明】
双子の両方と交際のあった女性の部屋で弟が殺されているのが発見される話。
現場では、兄らしき人物が目撃されているが兄にはアリバイがあって……というもの。
ミステリーにおける双子、イコール入れ替わりと目撃者の誤認だとかそういうものにばかり目がいってしまいますよね~。
そちらにばかり気を取られていて簡単なヒントを流してしまいました。
登場人物少ないし、ちゃんと考えればわかったんじゃないかと思います。
ちょっと悔しい。
【地下室の処刑】
森下刑事がシャングリラ十字軍なる過激宗教団体によって監禁されてしまい、その目の前で不可解な殺人が起きる話。
シャングリラ十字軍とは「カルテルの光」という新興宗教団体から派生した過激分子で、テレビ局や競馬場、野球場に爆弾を仕掛けたりした団体なんだとか。
あらかたは逮捕できたものの代表を含む幹部4名が全国指名手配されているんだそうです。
名前だけは
暗い宿内の『異形の客』でも登場していました。
森下刑事はその幹部のうち1人を街中でみかけ、応援を呼ぼうとしたところで拉致監禁されてしまうのです。
森下刑事の目の前で起きようとした処刑。
「どうせ殺される人間を先んじて殺す意味は何か」
人を殺す理由で、こういう理由もありなのか、と薄ら寒くなってしまいました。
でも昨日紹介した
地獄堂霊会通信を連想してしまいました。
【比類のない神々しいような瞬間】
ダイイングメッセージもの。
はじめに殺された先生が残したダイイングメッセージは珍しく、火村先生よりも先にわかりました。
いや、調べはしなかったので「これだ!」と断定できませんでしたけど。
そういう遊びがあり、かつああいう表記の仕方をするのは知っていたので「きっとそうなんだろうな」程度でしたけど。
最後にあかされた1000円札の秘密については「うまいなぁ」という他ありませんでした。
このネタは期間限定だからやったもん勝ちですね。
今じゃもう当たり前すぎて使えないですもんね。
【白い兎が逃げる】
ストーカー加害者の男が死体となって発見される話。
表題作です。
前述の通り、収録されている4編の中で1番長いです。
200ページ弱くらいかな? 1冊の半分程度がこの作品です。
あらすじにもあるとおり、時刻表も若干絡んできます。
途中、警察のストーカー犯罪への対処の遅れについてアリスが憤っているんですが、これってきっと「登場人物の有栖川有栖」の意見でもあり「作者の有栖川有栖」の意見でもあるんだろうなぁ。
だって、あの法律に関するやりとりは物語の本筋には影響してきません。
「ストーカー被害者の関係者が逆上して犯行に至った可能性もある」ぐらいはどこかにいれなきゃいけないかもしれませんけど。
そう考えると作者の憤りって考えたほうがすんなり理解できるかなぁ、と。
ムンちゃんと呼ばれる男性が登場するんですが、
裏京都ミステリーを思い出してしまいました(笑)
裏京都のムンちゃんよりこちらのほうが頭は良さそうです。
そういえば、科学捜査研究所の中森さんが登場するのですが、有栖川さんの作品で鑑識さんが登場したのってはじめてですか?
ちょっと不思議な感じがしました。
だいたいが刑事さんたちから情報をもらうからそういう鑑識さんから情報を得るってこともなかったんですねー。
ストーカー加害者が殺されるってことも、アリバイ崩しもおもしろかったです。
まさに盲点というか、前提条件が違うからこそできるトリックです。
見事にだまされました。
これからたこ焼き作るんで今日はこのへんで。
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